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シンポジウム「東洋学・アジア研究の最前線 ―AIの活用と課題―」

                            東洋学・アジア研究連絡協議会会長
                                    斎 藤  明
(趣旨)
 日本の東洋学・アジア研究の衰退の危機が指摘されて、すでに久しい時間が経過しました。2015年6月には、文部科学大臣より人文・社会科学系の学科・学部の統廃合を進めるという通知も出され、日本学術会議や多くの大学・研究機関でも様々な対応に追われてきました。  このような危機の到来は、東洋学・アジア研究分野の研究者一人一人に、自己の学問のあり方を根本的に再検討しつつ、この危機を克服し関連する学問の新たな振興をめざすべきことを迫るものであります。それとともに、自らの学問的ディシプリンや所属する研究機関・学協会の相異を超えて、多くの研究者が相互に連携・協同しあいながら、これに立ち向かっていくべきことを教えてもいます。
 今日、このような危機を克服する方策として、以下のことが重要ではないかと思われます。日本の東洋学・アジア研究は、近代的学問を相対化して、東洋・アジアの文化的諸価値を、時空を超えた世界の普遍的真理という一色の絵具で塗りこめないという長所を持ちつづけてきました。こうした長所を活かしながら、 一、21世紀に生きる人間としての共通の視点に立って、東洋・アジアにおける個別的な文化現象の諸価値を内在的に再構成すること。 二、こうした個別的な文化研究の積み重ねを総括する中で、東洋・アジアから世界に向かって発信する新たな人間科学 (Human Sciences) を興こすこと。 これらを実現する道を切り拓いていくことが重要なのではないでしょうか。
 私たち、約40の学協会は、2004(平成16)年9月、東洋学・アジア研究連絡協議会を設立しました。その目的は、東洋・アジアの諸文化を各種のディシプリンをもって研究する学協会が、将来におけるこの学問の一層の振興を図り、そのために相互の学術交流と連絡協議を行い、また国際的な東洋学・アジア研究の動きにも対応すること、などにありました。
  東洋学・アジア研究連絡協議会は、以上の設立趣意と現状への課題意識に基づき、模索のための具体的な活動の一環として、2013(平成25)年12月からシンポジウム「東洋学・アジア研究の新たな振興をめざして」を5年間に亘って開催しました。2019年度から新たに「近未来の東洋学・アジア研究」の表題を掲げ、さらに本年度は「東洋学・アジア研究の最前線」と題して、近年目ざましいAIの活用とその課題に焦点をあて、シンポジウムを開催いたします。  
 シンポジウムの講師は、近年、各分野において活発な研究活動を展開し新たな地平を切り拓こうと努めておられる先生方にお願いしました。
 研究者・学生・市民のみなさん、お誘いあわせのうえ、ふるってご参加下さい。

                                  
*終了しました。
  



             (会場案内図)

シンポジウム「東洋学・アジア研究の最前線―AIの活用と課題―」
日時:2023年12月2日(土)13時30分~17時30分
会場:東京大学国際学術総合研究棟文学部3番教室
開会挨拶(13:30-13:40):
斎藤 明(国際仏教学大学院大学特任教授、東洋学・アジア研究連絡協議会会長)
総合司会:島田竜登 (東京大学准教授)

報  告:
13:40-14:20
大向一輝 (東京大学准教授):人工知能技術の内実と可能性
14:20-15:00
カラーヌワット・タリン (Google DeepMind Senior Research Scientist):
AIくずし字認識と大規模言語モデル―日本古典籍から情報を取り出す新しい方法―

15:00-15:20 休憩

15:20-16:00
上原かおり (フェリス女学院大学准教授): 同時代の中国文学に見るAI
16:00-16:40
宮川 創 (国立国語研究所助教):
歴史言語学におけるコーパスデータの整備・分析にAIを活用する
   ―エジプト語史の視点から―
16:40-17:20
下田正弘 (武蔵野大学教授):
アジアからの発信―学術会議分科会活動報告とその一事例―

閉会挨拶:岸本美緒(お茶の水女子大学名誉教授)

〔報告要旨集
大向一輝:人工知能技術の内実と可能性
  生成AIはその言語処理能力によって近年広く注目を集めているが、人工知能研究には70年近い歴史があり、多様なアプローチが存在するため、評価に際しては相対化する必要がある。そこで、本報告では人工知能技術の全体像と歴史的背景を概説するとともに、デジタル人文学の観点から当該技術が人文学研究、とくに東洋学やアジア研究にどのように活用可能であるかについて議論する。

カラーヌワット・タリン:AIくずし字認識と大規模言語モデル―日本古典籍から情報を取り出す新しい方法―
 日本に残された数億点に及ぶ古文書や古典籍のデジタル化と公開が進みつつあるが、大量のデータから情報を取り出し活用するには人工知能(AI)の活用が不可欠である。そこで本発表では、2種類のAIを組み合わせて大規模に情報を取り出す方法を紹介する。まず画像データからテキストデータを抽出するAIくずし字認識、次にテキストデータから様々な情報を抽出する大規模言語モデル(LLM)を紹介し、この2つの技術を組み合わせることで、古典籍から多くの情報が自動的に取り出せることを示す。

上原かおり:同時代の中国文学に見るAI
 AIとの協働、共生が進む中、AI活用への期待と不安の声も高まっている。AIの進展は、人間の脳研究とも連動しており、私たちが人間性を問い直す機会も増えている。本発表では、科学技術と人類との関わりを描いてきたSF文学、特に同時代の中国のSF作家たちの視点に焦点を当てる。彼らはどのようにAIを捉え、どのような未来を想像しているのか。その問題意識、洞察、議論を通じて、AIを活用する際の課題や展望についての手がかりを提供したい。

宮川 創:歴史言語学におけるコーパスデータの整備・分析にAIを活用する―エジプト語史の視点から―
 エジプト語は、その最終段階のコプト語を含めると、書記記録が四千年以上の長きに亘るため、通時的言語変化の類稀なデータを提供する言語である。本発表では、OCRやNLPなど様々なAI技術を活用し、テキストデータの構築と高度な分析を行い、新たな言語史研究の枠組みを提示する。この研究手法は、ひいては、他のアジア・アフリカの文献言語にも適用可能であり、多角的な言語学的分析に貢献すると考えられる。

下田正弘:アジアからの発信―学術会議分科会活動報告とその一事例―
 コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争の勃発を顕在的な契機とし、世界の分断と軍事化が急速に進行する中にあって、新たなオリエンタリズムが勃興したかの如き昨今、アジア研究の意義を革めて問い、積極的に発信するべき時を迎えている。本発表では、そうした状況を踏まえてなされた第25期学術会議「アジア研究・対アジア関係に関する分科会」の活動を報告するとともに、アジア研究がAI時代に積極的な意義を果たしうる可能性と、その実現に向けた要件を、仏教研究分野の事例をもって提示したい。

問い合わせ:東洋学・アジア研究連絡協議会事務局 (一般財団法人東方学会内:
  千代田区西神田2-4-1、Tel.03-3262-7221、E-mail: iec@tohogakkai.com)